基本データ
- タイトル/著者:『ついてきなぁ!加工知識と設計見積もり力で即戦力』/國井良昌
- 初版発行/出版社: 2008年 /日刊工業新聞社
こんな人におすすめ
- 若手設計者
加工法の基礎を効率よく学びたい方にぴったりです。実務でよく使う加工法に絞ってあるので、最短距離で「使える知識」が身につきます。具体的な数値もあるので、設計の裏付けとしても役立ちます。 - 加工現場とのやりとりが多い方
加工法ごとの得手不得手や、よく使われる用語、公差の目安などがまとまっているので、現場との会話がスムーズになります。「あの加工、そんなに難しかったのか」と気づくことも多く、設計の配慮力が上がります。 - コスト見積もりに悩んでいる方
コストの計算法が具体例つきで紹介されていて、「勘」ではなく「根拠を持って」見積もるための考え方が身につきます。サプライヤーとの価格交渉や、社内でのコスト検討にも自信を持って臨めるようになります。
感想
設計の仕事をしていると、試作をする際にその費用を見積もったり、目標原価に向けて部品のコストダウンが必要になることがあります。
その際に、避けて通れないのが「コスト見積もり」。
でも正直なところ、私はこれまでずっと「なんとなく」で見積もっていました。
過去の試作の金額や、部品の大きさ、形状から「たぶんこのくらいかな」と感覚で判断していたんです。
ところが、実際にサプライヤーから上がってきた見積もりと大きくズレることもあって、「あれ、どうしてこんなに高いの?」と戸惑うこともしばしば。
そんなときに出会ったのが、國井良昌さんの『ついてきなぁ!加工知識と設計見積もり力で即戦力』という一冊でした。
この本ってどんな本?
2008年に出版されたこの本は、タイトル通り「加工知識」と「設計見積もり力」を実務レベルで底上げしてくれる内容です。
特にありがたいのは、筆者が現場経験をもとに「実際に使える知識」に絞って書いてくれていること。加工方法の得手不得手、加工限界、見積もりの考え方など、設計者が現場とやりとりするうえで必要な視点が詰まっています。
読んでよかった!と思ったポイント
① 加工法の「これだけ押さえればOK」がわかる
加工法って、種類が多すぎて何から覚えればいいのか迷いますよね。
この本では、実際のモノづくりでよく使われる加工法3つに絞って紹介してくれていて、「まずはここから覚えよう」と思える構成になっています。
とっつきやすく、実務に直結する内容なので、読んだその日から仕事に活かせるのが嬉しいところです。
② 加工精度や型費の「具体的な数値」がある
加工精度や型費って、「ケースバイケース」と言われがちで、なかなか参考になる数値が見つからないことも多いです。
でもこの本では、筆者の経験をもとに「このくらいを目安にするといいよ」という具体的な数値が載っています。
もちろん最終的には自分で調べて判断する必要がありますが、最初のとっかかりとしては十分。
「何もわからない」状態から、「まずはこのくらいで考えてみよう」と一歩踏み出せるのがありがたいです。
③ 加工法の比較が視覚的でわかりやすい
加工法の特徴を並べただけの本は多いですが、この本では「比較」がしっかりされています。
たとえば、切削・成型・板金それぞれの長さに対する一般公差を、1つのグラフで比較してくれているんです。
こういう視点があると、「この形状ならどの加工法が適しているか」「どこまで精度を求めるべきか」が判断しやすくなります。
設計の引き出しが増える感覚がありました。
④ 不良を「生活シーンから持ってくる」発想
個人的にとても印象的だったのが、「加工の不良は生活シーンから想像できる」という考え方です。
たとえば板金で2つの穴をあける場合、穴同士が近すぎるとゆがんでしまう。これは、穴あけパンチを使ったことがあれば、なんとなく想像できますよね。
私は設計者になってから、思わぬ不良が発生すると「知らなかったから仕方ない」と思っていたのですが、この考え方を知ってからは、「知らなくても予測することはできる」と気づきました。
生活の中の経験を設計に活かすことで、知識不足を補える。
それは、設計者としての想像力や感性を育てるヒントになると思います。
読後の気づきと変化
この本を読んで一番の気づきは、「コストはちゃんと計算できる」ということでした。
これまでは「経験がないと無理」「見積もりはベテランの仕事」と思い込んでいたけれど、加工法の特徴やコスト構造を知ることで、自分でも見積もりの精度を上げられると実感しました。
また、加工法の得手不得手を知ることで、設計段階から「この形状はコストがかかりそうだから、少し簡略化しよう」といった判断ができるようになりました。
結果として、製品のコストダウンや、打ち合わせでの説得力アップにもつながっています。
そして何より、「知らないから仕方ない」ではなく、「知らなくても予測する」姿勢が大切だと気づけたこと。
生活の中の経験を設計に活かすことで、設計者としての感性が磨かれていく。
この本は、そんな気づきを与えてくれる一冊でした。
おわりに:設計の「地力」を育てる一冊
この本は、単なる加工法の解説書ではありません。
設計者としての「地力」、つまり現場と対話し、コストを意識し、より良い形状を提案する力を育ててくれる一冊です。
もしあなたが今、「なんとなく」で見積もっていたり、加工法の選定に自信が持てなかったりするなら、ぜひ手に取ってみてください。
きっと、設計という仕事が少しだけクリアに、そして面白く感じられるようになると思います。

