基本データ
- タイトル/公開日:『爆弾』/2025年10月31日
- 監督:永井聡
- キャスト:山田裕貴、佐藤二郎、渡部篤郎
- 原作/作者:爆弾/呉勝浩
- あらすじ:
酔った末に逮捕された謎の中年男・スズキタゴサク。
取り調べの場で彼が口にしたのは、奇妙な言葉だった。
「霊感で事件を予知できます。これから3回、次は1時間後に白髪します」
その予言めいた発言は、やがて現実となる。
連続爆破事件が発生し、あまりにも的中する彼の言葉に警察は疑念を抱く。
タゴサクは事件に関与しているのではないか――そう考えた警察は彼を本格的に尋問し始める。
しかし、タゴサクは単なる容疑者ではなかった。
謎かけのような言葉で警察を翻弄し、爆弾の場所を吐かせようとする捜査官たちとの間で、緊迫した心理戦が繰り広げられる。
挑発的な態度を崩さない彼の真意はどこにあるのか。
爆弾はいつ、どこで爆発するのか。タゴサクは本当に犯人なのか。
そして、警察を挑発し続ける彼の目的とは――。
感想
予備知識なしで挑んだ鑑賞体験
何も予備知識を持たずに映画館へ足を運びましたが、予想以上に引き込まれ、2時間30分間、最後まで緊張感を持って楽しむことができました。
予告編や原作を知らなかったことで、展開の意外性やキャラクターの魅力がより鮮明に感じられました。
魅力的なキャラクターと俳優陣
登場人物はそれぞれ個性豊かで、自然と応援したくなる存在でした。
- 清原(渡部篤郎):人間味あふれるキャラクターで、弱さや迷いを見せながらも誠実に生きる姿が印象的でした。
- 類家(山田裕貴):天才肌でありながら社会にうまく溶け込む若者。その姿はスズキタゴサクと清原の中間のようであり、社会の理不尽さと人間性の葛藤を強く意識させられた。
- スズキタゴサク(佐藤二郎):無邪気さの中に社会に馴染めない複雑さを感じさせ、彼の言動が社会や人間の「当たり前」を問い直します。
特に類家とスズキは、フィクション上の個性的な役どころながらも、俳優の演技によってリアリティが増し、違和感なく物語に引き込まれました。
心理戦のシーンでは、ポーカーフェイスにもかかわらず、微妙な表情や話し方で内面が表現されており、非常に印象的でした。
読めない展開のスリル
爆弾がいつ爆発するのか、本当に爆発するのか、誰が犯人なのか――そうした予測が全くつかず、終始ハラハラさせられました。
一般的なサスペンス作品なら「この人が怪しい」と予想できる場面も多いですが、本作はその期待を何度も裏切り、最後まで緊張感を持続させています。
観客の先読みを巧みに利用した構成が非常に優れており、サスペンスの醍醐味を存分に味わえました。
社会的テーマとの接続
単なるサスペンスにとどまらず、社会的問題や人間の本質にも切り込んでいます。
- 安全な場所から他人を攻撃するネット社会の無責任さ
- 格差を見て見ぬふりする社会と人々
- きれいごとで矛盾や欲望から目をそらす人々
例えば、こんなやりとりがあります。
「類家さんは、人を殺したいと思ったことはありませんか」
それに対して類家はこう答えます。
「ありますよ。でも、しません」
私はこのシーンを見て、なぜ人を殺してはならないのか、なぜ私はしないのか、を考えさせられました。
鈴木の発言は「当たり前」を疑わせる力を持ち、以前感想を書いた『地球星人』と同じテーマ性を感じました。
観客は単に楽しむだけでなく、自身や社会について考える契機となるでしょう。
もう少し掘り下げてほしかった点
一方で、轟(染谷将太)、伊勢(伊藤沙莉)、矢吹(坂東龍太)、倖田(寛一郎)、そして石川家の人々は、謎解きに重要な役割を担っているものの、内面が深く描かれず浅い印象を受けました。
小説ではより説得力があるのかもしれません。
映画としては主要キャラクターに比べて存在感が薄く、ややバランスを欠いた印象です。
続編への期待
総じて『爆弾』は、予測不能な展開と社会的テーマを兼ね備えた作品であり、俳優陣の演技力が物語を現実に引き寄せる力を持っています。
サスペンスとしてのスリルと社会派映画としての深みを両立させた稀有な作品であり、原作には続編があるとのことなので、次回作の映画化にも大いに期待しています。
こんな人におすすめ
- 緊張感あるサスペンスが好きな人
爆弾がいつ爆発するのか分からない展開にハラハラしたい人。 - 心理戦や駆け引きに惹かれる人
スズキタゴサクと警察の対話劇は、表情や言葉の裏を読む面白さがあります。 - 社会派テーマに関心がある人
ネット社会の攻撃性、格差、きれいごとの裏にある矛盾など、現代社会を考えさせられる要素が強いです。 - キャラクターの演技をじっくり味わいたい人
類家や鈴木のような個性的な役柄を、俳優が違和感なく現実に落とし込む演技力を楽しめます。 - 原作小説ファンや文学好きな人
小説『爆弾』を読んでいる人は映像化による解釈の違いを楽しめますし、未読でも「社会と人間の本質」を問う文学的テーマに触れられます。
