基本データ
- タイトル/著者:『季語のにおう街』/黛まどか
- 初版発行/出版社: 2000年5月 /朝日新聞社
感想
黛まどかさんの『季語のにおう街』を手に取ったきっかけは、テレビ番組で彼女の姿を見たことでした。
歩きながら俳句を詠むというスタイルに、山歩きが好きな私は自然と惹かれました。
番組の中で彼女が語っていた「今の人は何にでも解説を欲しがるけれど、もっと感受性を豊かにすれば、感じることができるはず」という言葉が印象的で、俳句に対して「よく分からない」と感じていた私にとって、それは「分からないのは感受性が足りないからかもしれない」と気づかせてくれるものでした。
そして何より、『季語のにおう街』という美しいタイトルに心を掴まれ、ページをめくり始めました。
この本は、筆者自身の体験とそこから生まれた俳句、あるいは関連する句が綴られていて、季節の流れに沿って構成されています。
俳句に馴染みのない私でも、体験を通して句の背景が見えることで、自然と理解が深まりました。
特に心に残ったのは二つの点です。
ひとつは、俳句が人生を豊かにするということ。
筆者の俳句の先生の言葉──
「君は俳句に出会ってよかったね。こうやって散歩をしていても、俳句を作る人と作らない人では見えてくるものが違うんだよ。『渡り鳥』という季語を知らなければ、鳥の群れに気が付かなかったかもしれない」──が胸に響きました。
それ以来、私も通勤路で耳を澄まし、風を感じ、景色を探すようになりました。
何気ない日常が、感動に満ちたものへと変わっていったのです。
また、筆者自身の記述にもこんな一節があります。
「雨の吟行会もまた悪くない。雨を疎まなくなったのも、俳句を嗜むようになってからだ」
私は雨の日は家でゆっくり過ごすのが好きで、外に出なければならない日は少し憂鬱でした。
でも、俳句の世界では、雨に濡れそぼる桜もまた情緒があり、それを見るために雨の日に外を歩くのです。
なんて豊かな世界だろう、と感じました。
もうひとつ印象に残ったのは、俳句の世界がもともと男性中心だったという事実です。
日の目を見なかった女流作家が多くいたこと、筆者自身も男性の多い世界で苦労を重ねてきたことが記されています。
また、筆者は女性だけの俳句誌を立ち上げ、その規模を大きく育てた人物でもあります。
女性の俳句界への進出を後押しした一人なのだと知り、感銘を受けました。
機械系エンジニアとして、いまだに女性の少ない世界に身を置く私には、俳句の世界での女性の歩みが重なって見え、「私たちももっと進めるのでは」と勇気をもらいました。
この二点が特に印象的でしたが、全体を通して、筆者の生き方や考え方に強く惹かれました。
テレビで見たときは穏やかな芸術家という印象でしたが、本書ではサーフィンやヨットを楽しみ、海外で俳句を広めるなど、芯のある行動的な姿が描かれていて、もっと彼女のことを知りたくなりました。
俳句の美しさだけでなく、生き方やものの見方を再考させてくれる一冊。
黛まどかさんの言葉に導かれ、私の日常も少しずつ、豊かに変わっていく気がしています。
総評:こんな人におすすめ
- 日常に感動を見つけたい人
- 俳句や言葉に興味があるけれど、敷居を感じている人
- 男性中心の世界で生きる女性や、そこに違和感を持っている人
- 芸術家の生き方や考え方に触れたい人

