基本データ
- タイトル/著者:『地球星人』/村田沙耶香
- 初版発行/出版社: 2018年8月 /新潮社
感想
『コンビニ人間』を読んだあと、村田沙耶香さんの『地球星人』にも手を伸ばしてみました。
あらすじを読んだ時点では、正直ここまで衝撃的な展開になるとは思っていませんでした。
読み進めるうちに、どんどん常識が揺さぶられていく感覚に陥ります。
この作品も『コンビニ人間』と同じく、結婚や出産といった「世間の当たり前」に対する違和感がテーマになっています。
でもそれだけじゃなくて、働くこと、家族を持つこと、人間らしく生きること…そんな“普通”の価値観そのものが、物語の中で問い直されていくんです。
最近は「多様性を認めよう」という言葉をよく耳にしますよね。
でも『地球星人』は、もっと深いところに踏み込んで、人間の根っこにある感覚や価値観にまで疑問を投げかけてきます。
たとえば、子供同士の性交渉や人間を食べるという描写は、読んでいて思わず目を背けたくなるような内容。
でも、読み進めるうちに「この嫌悪感って、もしかして“世間の常識”が作ったものなのかも?」と思えてくるんです。
そしてもうひとつ印象的だったのが、登場人物の由宇、奈月、智臣の3人が「自分は地球に紛れ込んだ宇宙人だ」と信じていること。
突飛な設定に見えるかもしれませんが、彼らにはそれぞれ、毒親に育てられたり、性加害を受けたりといった過去がありました。
そんな過酷な環境の中で、彼らが“常識の世界”から外れることでしか自分を守れなかったという背景があるんです。
そう考えると、この作品は「常識から外れた人たちの物語」でもあり、「常識そのものが、時に人を傷つけることがある」という社会へのメッセージにも感じられました。
常識って、誰が作ってるんだろう?
本当にそれが“正しい”って言えるのかな?
そんな問いが、読後もずっと頭の中に残ります。
読了後の感覚は、正直言って生々しくて、少し薄暗い。
でもその不快さこそが、私たちの“当たり前”を見直すきっかけになるのかもしれません。
総評:こんな人におすすめ
- 社会の“普通”に違和感を覚えたことがある人
家族、恋愛、性、教育など、あらゆる「当たり前」を疑う視点が描かれているから - 孤独や疎外感を抱えてきた人
奈月の孤独は、ただの悲しみではなく、世界との距離の象徴として描かれている - 読後にモヤモヤを残す作品が好きな人
スッキリしない、でも考え続けたくなる。そんな余韻が強く残る - 村田沙耶香作品に惹かれる人
『コンビニ人間』よりもさらに深く、暗く、鋭く“人間”を問い直している - ジャンルの枠を越えた文学に興味がある人
純文学、社会派、心理小説、異世界的要素が融合したジャンル横断型作品